竹本さんのパエリア米

パエリア

時を経て、ダイヤブロック

子どもの頃、ブロック遊びに使っていたのは、母方の爺ちゃんのこだわりによるダイヤブロックでした。お友だちみんなが持ってたLEGOではなくて、ダイヤブロック。現時点のそれがどうかは分からないものの、当時LEGOにあってダイヤブロックになかったのが、人間やお花や三角屋根や車の車輪といった、なにかの形であることがくっきりと分かるモチーフもの。

ダイヤブロックは、「ながしかく」か「ましかく」かの違いはあっても、とにかく「しかくいの」しかなかったのです。

女好きなイケメンの画家(金遣いも劣悪)だった爺ちゃんのこだわりの背景にあったのは、自由さこそが創造性を育むものだという思いだったのだそうで。子どもが自由に創造するのにあらかじめそれっぽい形があってはならぬ、というような。

自由に人生をクリエイトしすぎた爺ちゃんが、複数の(!) 家庭を破滅させ、ゆえに亡くなって20年以上経過する今でも、愛情を込めて「くそじじい」と呼ばれていることは、また別のお話として。

竹本さんのパエリア米でパエリアを作ってみたときに思い出したのが、この「ダイヤブロック感」。パエリアもリゾットも、パエリア米で作る料理はどれも、具材は何と何をどう組み合わせるのか味のベースをクリームにするのかトマトにするのか、組み合わせがあまりにも自由自在。それが楽しくそれが奥深く、だからどこまで進んでも辿り着かぬこのパエリアの道よ。

リゾットにも
パエリア米ならリゾットめいたお雑炊にならない。ポルチーニ茸のクリームリゾット。

なぜそんなにもパエリアなのかと言われても

一度目のパエリアで、おもちゃ箱のダイヤブロックを思い出してしまったがために、その翌日も翌々日も食卓に並んだパエリア。この手の熱中の仕方は、わたしにおいてそれほど珍しいことでないため夫は驚きはしなかったけれど、一応、コミュニケーションの様式美として質問をくれるわけで、

「なぜそこまで急激にパエリアなんだい」。

子どもがブロックでお城を作り橋梁の建築を行い、お花を咲かせたお庭に折り紙の犬を走らせることに理由が必要ですか。わたしは生きるようにパエリアを作りその創造性の深淵に遊び楽しみ味わっているのです。なんつって。

終わりが見えないから、まだ上手になれると思うから、まだイメージしたものをバチっと完成させられてはいないから、そしてゴールのイメージすらまだ霧がかかっているから、今日も明日も明後日も当面パエリアなのですよ、貴方が飽きたと泣くのなら、その日はリゾットにしましょうぞ、という食卓パエリアマラソン2021。

イカスミパエリア

ただ、ひとつだけ、これだけは言いたい。昨日のパエリアと今日のパエリアは同じでしたかと。昨日はサフランベースの魚介てんこ盛り、今日はイカスミだったじゃない。これを一括りに「パエリア」として捉えることは、その具材に対してあまりに失礼な振る舞いではありませんか。

具材が違うから味が違う、見た目も違う、目と舌で楽しむといわれる料理のうち、見た目と味とが違うのです昨日のパエリアと今日のパエリアは。この場合、料理名やカテゴリではなく「どのようなパエリアであったのか」まで是非お近づきいただき捉え直していただきたい。低い!「パエリア」だなんて低いよ、解像度が低い!

新参、パエリア米

祖父のこだわりのダイヤブロックは、小学生に上がった春だったか夏だったか、近所のちびっ子に譲ってしまったので、かれこれ30年以上ぶりにわたしが手にしたダイヤブロック、パエリア米。

これがもう楽しくて美味しくて楽しくて、狂乱のパエリアフェスティバルになっているわけですけれども、パエリア米に出会ったのは本当に最近。我が家の食材としては新参、ニューフェイス。なじみのあった食材では、まるでないのです。

出会いはポケットマルシェだったはずなのだけど、パエリア米がはっきりとその輪郭をもってわたしに飛び込んできたのはTwitter。

ポケマルつながりのご縁で仲良くしてくれるぷーこさんが、パエリアうめー!とやりだして、他の仲良しさんも「パエリア最高!」と続き、2020年のクリスマスなどは、わたしの友だちの多くがパエリアで過ごし、「パエリアを作って食べること」を「パエる」なんて言い出して、名詞が動詞に変化する歴史的瞬間を見たりもしたわけです。

品詞の変貌に必要なのは、活用頻度とユーモアの威力。

なにはともあれ、食べることの好きな人ばかりが集まったわたしのTwitter友だちが、美味しいと口を揃え、楽しいという。こんな太鼓判がありますか。わたしが割と食に保守的で、新しい食材をお迎えすることが多くない封建的な我が家の台所にも、注文前の時点で太鼓判つきだったパエリア米は、初の食材なのにレッドカーペットを敷かれたような出迎えられ方でご登場、という流れ。指定校推薦かつ成績優秀ゆえの学費免除枠入学のような形で。

支援者集めかファン作りか

パエリア米は、なにも自然発生的に人気者になったわけではなく、生産者竹本さんの広報宣伝の努力というかなんというか、そういうところがかなり大きいなぁと理解している次第でして。感染症対策の影響で飲食店への出荷が激減して困った、これをなんとかしたいとSNSや産直EC上で多く発信していらしたのを知っているから。

「コロナで困っています」という文脈はたっくさん見たし、そうだよね大変だよね、とも思うのだけれど、竹本さんはそれだけじゃなかった、そこが好き。「困っているのはなにも貴方だけではないのよ」なんていう、そんなどうだっていいことを言いたいのではないし、「助けなど求めるべからず」なんて話でもない。困っていると言えずに一人で闘う必要なんてあるわけがない。

ただ、「困っている人」として「助けられ」たり「助けたり」してしまったら、困らなくなったときに途切れてしまうものもありそうで、もし出来るのであれば、そうならないご縁を紡ぎたいなぁ、という個人的な考え方のお話。めちゃんこ困っている、もう無理、ムリったらムリ!!ってときに、それどころじゃないことだって当然あろうことを理解しながらも。

事実、レッドカーペットで我が家にお越しくださったパエリア米の生産者である竹本さんは、「困っています」の文脈だけではなしに、「炊いてもマズい」という鮮烈な主張で商品を説明して、美味しいパエリアの作り方や注文に適した分量までをしっかりみっちり、ちょっぴり面白く書いてくださっていて、「困ってる!」とはまた違う、「美味しく作ってよね」「残さず食べてよね」を伝えてくれている、そこが好き。

支援者を募っているというよりは、これを期にファン作りをしようっと、だってうちの米、炊いたらマズいけどパエリアって簡単で美味しいんだぜ、って。

遂にはじめた1人パエリア
遂に始めた1人パエリア

困惑と正解のパエリア

開封したパエリア米は、「プロの手で美味しいパエリアにしてもらえるって聞いてたんだけど…」なんてちょっと不安そうにこちらを見ていて、うわぁごめんね素人なの、でも頑張るからひとつよろしく、という心持ちになる。心もとないかもしれませんがわたくし精一杯努めさせていただきます、大丈夫、作り方、とっても丁寧に書いたお手紙も一緒に届いたから。ね、機嫌直してよ。

飲食店でパエリアを注文して出てきたのを味わうのと、パエリアを自分で作るのとはまるで違う。どんなものを創ろうか、具材はどうしようか、あれは合うかなこの出汁はどうだろう、これくらい炒めればいいかなもうちょっとかな、とやるのが、もう楽しい。ああそうだよねこの体験も買ってるんだなわたし、と自分の買い物と食いしん坊仲間の情報の正しさを実感してうれしくなっちゃう。

ブロックで作ったお城を買って欲しかったんじゃない、思ったお城をブロックで表現できるのが楽しかったのであるわけで。

我が家にお迎えしたパエリア米が、「あんたになら任せるよ」って安心した顔でこちらを見てくれるようになるまで、やっぱり今日もパエリアを作る。

今回の生産者さん情報

HPhttps://okomelove.com/?pid=157171647
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ポケットマルシェhttps://poke-m.com/producers/42907
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