吉岡さんのホッケ

自家製ホッケの開き

ホッケってほんとに魚だったんだ

初めて鮮魚として、丸まんまのホッケを見たときに思ったこと。

「あ、ほんとに魚だった」。

居酒屋さんやスーパーで見るホッケは、たいていいつも頭が落としてあって開いてあって場合によって焼いてあって、形状と味から「魚だわな」とは思っても、どういう顔をした、どんな色の、どんな魚かなんて知らなかったから。

ヒレがついてて、スーパーなら鮮魚売り場にあって、間違ってもパンやお菓子の売り場にあったりはしないから、それらの累積した事実から、「ホッケは魚ってことで、あってるんだと思います」程度の認識だった、ホッケ。

ポケットマルシェで、北海道噴火湾の漁師、吉岡さんからホッケをいただくようになって2年が経ちます。

吉岡さんとの出会いはもっと古いのだけれど、ホッケはまだ2年。

でもまた今年も、吉岡さんがホッケを売り出してくれて旬が終わるまで、我が家の冷凍庫は2尾以上のホッケが常駐する体制にて運営していく所存です。

本当に魚だった。

「ホッケ=干物」だとばかり

ポケマルの、いわゆる「鮮魚ガチャ」で (主に夫が) 鍛錬をし続けた甲斐あって、初めてのホッケ、お顔を拝見しましてすぐに分かりましたとも、「あなたアイナメのご親戚ね?」と。

もともと魚種に詳しくなどなくて、ガチャでこれまで何度もお会いしていたアイナメとそっくりなお顔立ちだったから分かっただけのことだけど。

目と目の間の間隔がきゅっと狭くて (魚はたいていそうかもしれない)、頭蓋骨のフォルムが口から目の上方にかけてシャープ、頭蓋骨に比して大きな目と口、大きめの胸ビレに背ビレ、ぷっくり大きな福々しいほっぺた。

ホウボウみたいなぶっ飛んだ色彩ではないけれど、よく見れば目眩がしそうなサイケデリックな柄のお肌、そして、どうにもこうにも、ちょっとこのウロコを落とす気にはならんなぁという、体に対してあまりに小さく細かなウロコ。

初対面じゃないのに初対面のようなホッケ、「…あなただったのね…!」という、『わたしの足長おじさん』様式。

居酒屋さんでもメニューにあればお願いするし、スーパーで買ったことだってある。

身離れがよくて脂がのって、好きか嫌いかといえば好きなほうのお魚のなかで、これほどまでに風貌のイメージのもてない魚も珍しい。

それはなにも見た目だけの話だけじゃない。料理だって、「ホッケは干物」だと思ってた。

吉岡さんとのお付き合い自体はそれなりに長いのに、なぜホッケはまだ2年目か。

干物ばっかりそんなにいらないと、そう思っていたから。

自然発生的立ち食い酒場

吉岡さんが売っていたから買ってみて、吉岡さんが勧めてくれて覚醒したのが「ホッケのフライ」。

これ、一般的なものなのでしょうか。

ホッケはフライが常識で、それを知らないのは物知らずだよ、なんていう可能性もあろうことを踏まえても、感激したのですホッケのフライ。我が家の新常識、ホッケのフライ。

吉岡さんが、船上で神経締めにしてくれるホッケ。

それをささっと (夫が) 三枚におろし、砥石でしっかり (夫が) 研いだ出刃包丁で適当な大きさに (夫が) 切る。三枚におろすのが間もなく終わるかなというタイミングで、フライパンに揚げ油を用意して火にかけ、件の中骨に塩コショウをして薄力粉をまぶし、その中骨を低温の油で揚げていくわけです。

焦がさずカリカリにしたいがための低温なので、なかなかいい感じに揚がらないけれど辛抱し、その間にフィレを一口大の削ぎ切りにしたら、いそいそとそこに衣を纏わせ、あとは揚げるだけにしておきます。

パン粉だらけになった手を洗うころには、さっきの中骨がいい色に揚がって部屋中にもうたまらない匂いが充満するので、

フライパンに浮かぶ2~3個が食べごろになれば、遂に冷蔵庫からビールを取り出し揚がったものからキッチンペーパーにあげて、最低限油をきったらいただきます。

揚げては食べ、食べては返して色を見て、骨も尾ビレもなにもかも、骨という骨、ヒレというヒレを骨せんべいにし終える一歩手前で、ようやく身のほうをフライにするけれど、

これももう揚げたてを、とにかく揚げたてを食べたくて、そんな訳でホッケの届いたその日には、自然発生的に自宅の台所が立ち食い酒場になるというわけ。

こんな調子なので、下処理の丁寧さと骨もヒレもおいしくいただくので、毎回笑っちゃうくらい生ごみがでないのも嬉しい。

中温で揚げたフライは、とにかく真っ白な身の筋繊維の間をキラキラの脂が流れて、皮のほうなんて、ちょっとグレーがかったサラサラの脂が身を覆って、そこにあるのは白身魚という愉悦。

臭みなんてなにもないから、タルタルソースもいいけれど、塩でいけちゃう。極上。最高。

ホッケのフライのきらきら
食べるのに集中しすぎて焦点の定まらぬフライ写真。一大スクープ写真のようなブレ方。

ホッケスタンドなる、我々の夢のお話

桁違いに美味しいもので、そうして巻き起こる自宅内立ち食い酒場の話題は色々あって、中でもわたしのお気に入りは、「ホッケスタンド構想」。

別になんてことはなくて、キッチンカーで街角に行って、ホッケのフライと骨せんべいを売ったら、一体どれほど人気になるだろうか、男子高校生はもとより、飲み会帰りのお父さんにもお姉さんにもホッケフライ、ってなるよねという、台所立ち飲み夫婦のワクワク酔いどれ話。

中学時代、お腹が減って気が遠くなりながら帰り道を急いでいたけれど、あの頃、もしもこのホッケフライがあったなら。

この極上ホッケの、衣をおかしなふうに厚くなんかせずに揚げたものが、あの帰り道の途中の、例えば本屋さんの前とか、当時はタバコ屋さんだったあの交差点の角に売られていたならば。

嗚呼、夢のホッケスタンド。

あくなき我がホッケマネジメント道

ホッケのアラがごちそうでごちそうd
どんどん揚げます、カリカリに揚げます

10尾入れていただくホッケのうち、3尾から4尾ほど、つまり1尾/1人の割り当てでフライをいただき、あとは(夫が)開き、しかるべき処理をして(場合によって浴室乾燥によって)干した「自家製ホッケの開き」の、この美味しいことといったら。

グリルの内部、自身の豊富な脂分で半ば揚げ焼きになったホッケの表面の身はかりっとして、箸を入れると湯気がふわっと湧き出て、表面のカリッ、が、嘘みたいにふんわりした身。

おろし大根を載せた身を頬張るもよし。

ああでも願わくば、焼きたてのホッケの身の表面にちょびっとお醤油を垂らしたのが、その熱で一部じゅわっと揮発して香りをたてたのを、ホカホカの白ご飯にのせたい。

あああああああああああ、のせたい。

絞った柑橘の果汁で、焼きたてのホッケの身が少し冷めて食べやすくなるのなんか、もう筆舌に尽くしがたい幸せ。

仕上げに背骨に薄くくっついた身のカリカリに焼けたのがぺろーーーーんって取れた、その琥珀色に透明になったのが香ばしくて美味しくてたまらないから、ほどよく骨に身を残していただきたい。

なんてことをやっているから、自家製のホッケの開きを作るようになってからというもの、1食につき2尾程度ずつホッケを消費する我々。

2尾ずつ消費していくこと、そして吉岡さんが発送してくださってから都内の我が家に届くまでは中2日間かかることを加味して、これからの季節は我が家の長いホッケ祭り開催期間と相成ります。

冷凍庫から尽きることのなきように、常に慎重に残数を管理し、北海道の週間天気予報を確認し、豊漁を祈願し、お天気をよみながら注文をして、言うなれば、ホッケにまつわるSCM統制を願い祈り具現化を目指すエブリディ。

ホッケマネジメントの道はまだまだ遠く険しく、時折冷凍庫からホッケの姿が消えかねない瀬戸際となれば、今度は「食べたらなくなるから我慢」という路線に切り替えたりなど忙しい。

追究の余地ある、奥深きホッケマネジメントの方法論とその哲学よ。

焼く前、干し終えたばかりのホッケ。神々しい。

ホッケ戦線2021、わたしからおすすめしたい3点

ホッケの顔を知っているか否かに関わらず、もしホッケを買って家にお迎えされるのならば、おすすめしたいことがあるのです。

  • フライにもお刺身にも開きにもしようとするのなら、おすすめしたいのは、開き用もお刺身用も、すべての個体のヒレを切り落としましょう   ⇒ヒレはおいしい、骨せんべいが美味しい。焼けば炭になるのだから、カラッと揚げて胃袋へ。尾ビレのない干物はちょっと間抜けな見た目ですが、焦げたのがパラバラと食卓に落ちることもありませんので良しとしましょう良しと。
  • 開きを作るうえでの塩分管理はしっかりと   ⇒好みの塩分、好みの干し具合の探求の楽しいことといったらありません。ホッケの身の厚みにもよるけれど、基本的なお気に入りの数値はもっておくことを、ホッケ戦線を笑いながら駆け抜けるためにもおすすめしとうございます。
  • アタマは揚げるでも捨てるでもなく、おすすめしたい潮汁。ホッケの豊かなそのほっぺたを、ほろっと箸でつまんで、塩味のお汁とごはんとお漬物で世界平和。

高速進化系生産者さんであるところの吉岡さんのお話

こんなこと書くと、「あのときはすみません」って、今でも吉岡さんはそう言うに違いなくて、ちょっとどうしようかと思ったものの、わたしはその出会いも含めて吉岡さんが好きなので、「最初の吉岡さん」のお話を少し。

一番はじめにお願いしたのはお魚セット、至極丁寧な発送連絡、2日後に到着。

受け取った息子から、まだ帰宅中だったわたしに緊急SOS。

「おかあさん、ハコから水がでてげんかんがすごい」

魚を詰めていただいた発砲スチロール、四隅に水抜き用の穴が開いた魚河岸仕様でございました。

氷が溶けて玄関が水びたしだったことは良い。拭き掃除サボってたからちょうどいい機会。

問題は、とても人のよさそうな、このポケマルに登録なさったばかりの漁師さんに、「これはもしかしたらトラブルになるかもしれないです」と伝えることの難易度よ。

うちはいいけど、普段から掃除の行き届いた別のお宅の玄関先で、あるいはお部屋で、発泡スチロールの四隅から漏れ出た水が歓迎されることはなさそうだなぁと、なんども文章を推敲して吉岡さんにその旨を連絡したのも、本当にいい思い出。

吉岡さんは、その連絡に極めて誠実にお詫びをしてくださって (玄関は前日比120%で清潔になったからよかった)、都合のよくないはずのお話とも向き合ってくださる方でほっとした、それが最初の印象。

とはいえ、箱こそ想定外でも、丁寧に処理された吉岡さんのお魚は美味しくて、そのあとすぐにまたお願いをさせていただいたのです。

箱食べるんじゃないし。

そうしたらば、次に受け取らせていただいたお魚の梱包がもう非の打ち所のない完璧さで、そこに感動したことを覚えています。

丁寧さに上乗せして高速回転する改善アクションに信頼が急上昇し、かかりつけ漁師さんのお一人が吉岡さん。

今でも吉岡さんからのお魚を受け取ると、あの息子の悲壮な電話と、覗き込むわたしの顔を映し出す玄関先の水鏡を思い出すわけですけれども。

あれから数年、吉岡さんには数え切れないくらいお魚をお願いして、何度か直接お会いもいただいて、その仕事の丁寧さと、それゆえの美味しさに夢中な、ここ2年。

まもなく4月、今年も溺愛ホッケに会える予定です。

今回の生産者さん情報

ポケットマルシェhttps://poke-m.com/producers/17979
instagramhttps://www.instagram.com/ichiman.y_miwa/?utm_source=ig_embed&ig_mid=D8A5F84B-1BB6-48F1-99D4-C9CEFF58F38E

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