熱狂のセリ
セリって、食べたことがなかったのです。
本当は、小学校の給食で出てきた七草粥には、「七草粥」ってくらいだから入ってたのだと思うけど、なんせお粥なので、わからない。
どれがハコベでどれがホトケノザなのかなんてことはもちろん、この中に入ってるのが「七草」じゃなくて「四草」でも分からないし、七草のどれでもない草が入ってたって分からんな、というアレ。
そのうえ通っていた小学校の七草粥は、なんだか少し体育館倉庫の味がして、嫌いってほどじゃないけど特段嬉しくはないやつ、という位置づけでありました。
「七草のどれなのか、それとも全部なのか大部分なのか分からないんだけど、体育館倉庫の奥のほうの味を発する草が7つの中に1つ以上ある」
という、そういう認識ゆえ、春の七草の筆頭たるところのセリを、まさか単体で買って食べようなんて思ったこともなかったわけです。
なのに2021年4月現在でわたしが最も熱狂する食材、三浦さんのセリ。
毎食食べたい、なくなると困る。
綺麗に洗って生でもいただく、根っこから新芽のところまでどこをとっても美味しい。どこをとっても味わいがそれぞれに違って、束にかぶりつく日だって、きっとそんなに遠くない。
スポンジに生えてるんじゃないっぽい
東京に来た春にスーパーで初めて見かけて (少なくとも10年ほど前の関西圏ではめったに見かけませんでした)、「ああ、あの、お粥の」と思ったセリは、スポンジに生えていました。
糸三つ葉の多くと同じで、スポンジに根っこを張ってる、あれ。
そのあと数年して、一度だけ、なんの拍子だったのか多分三つ葉の代わりくらいのつもりで買ったスーパーのセリは、やっぱりスポンジに植わっていて、透明のフィルムに張りついた葉が黄色く変色し、葉と茎の一部が溶けていたのでした。
植物って溶けるのか。
そんな覚えがあったので、セリに対しての印象は、なんともたおやかな野菜だなぁ、というところ。
曽根崎心中の一場面、想いを寄せるジロベエだったかハチベエだったかそんな名前の男性に、しおしおヨヨヨとしなだれかかり、さめざめと泣くお初を思い出すようなたたずまいだったゆえ。
あの「スポンジに植わってるやつ」を養液栽培というらしいと知ったのは、ポケマルで三浦さんのセリをいただいたらスポンジがついておらず、
あれ?と思って調べるわけで、無知な大人にはいつまでも「知る感激」があるので悪くございません。
なぜそんなことを調べたのか。
違いはスポンジだけじゃなくて、まるまんま全部、思ってたのと全然違うのが届いたから。
物静かに物憂う乙女とばかり思っていた野菜が戦闘系だった驚愕について
受け取ったセリと思っていたセリの間の相違点。
- 太くしっかり密集した、「栄養吸収器官でござい」、という風情の根っこがついてる
- 1本ずつが太く、根に近づくにつれて太くなるけれど、根っこのほうの食感も硬くない
- わさわざと茂った葉に新芽はどれも瑞々しくて、一片だってしんなりしていない、黄色くなってもいない、溶かしても溶けそうにないタフな雰囲気
叶わぬ恋にさめざめと泣き崩れて今生に絶望しちゃうお初の、あの儚さのかけらもないのであります。
知ってるセリはセリだけどセリじゃなかったと胸の内でつぶやき調べれば、「セリ」の名前の由来は「競り」、生命力が強くて競るように生えるから「セリ」なのだとか。
春の七草、そうだった、野菜が嫌いでお粥も嫌い、お肉とアマダイの干物と桃しか食べなかった不届きなじいちゃんが、「雑草粥」って言ってたな。
お初嬢だと思っていたものは、チャーリーズエンジェルだった。
ポケットマルシェで生産者さんから食材をいただくことの楽しみのひとつは、こんな思ってもみなかった発見があるところ。
魅惑のセリ偏愛のセリお慕わしいセリ大好きなセリ
注文履歴をさかのぼれば、初めて三浦さんのセリをお願いしてみたのが2月18日のこと。
食いしん坊つながりで仲良くして下さっている、ポケマル友だちの頼子さんに教えていただいた「肉飯」(鶏肉の甘辛炒めと茹でたセリの混ぜご飯、これが美味しい。男子大好きな味わいで我が家の男子も無抵抗に落城)をもっと容赦なく作りたくてお願いしたのが始まり。
そこから2ヶ月弱で、実に9.5kgのセリをお願いして参りました。
葉物野菜の消費量としてはなかなかなのではなかろうかと思うのですが、お鍋などは夫婦二人で1kg強を食べきります。
なにがいいのか。
- 根っこ寄りの太いとこが柔らかい!中がみっしり詰まってるわけじゃなくて空心菜的な雰囲気、これがサクサクの歯ざわりで、その空間から香りが弾けるのがたまらない。
- パンチのある香り!大人の特権的位置づけの一癖ある香り、これが大幅に食欲を掻き立て脳天を突きぬける満腹中枢破壊装置。脂の多いお肉とあわせるのもよし、サラダでもよし、麺類に添えてもよし、全部いい。全肯定。君のすべてが好き。
- 葉~新芽のやわらかさ。萌え出づる若芽を幸せそうに咀嚼する飛火野の鹿の気持ちになる。生で食べたい生で。
- 野趣溢れる根っこのもじゃもじゃ。一番美味しい気がする根っこ。ポケマルでお野菜をいただくようになって、お野菜の根っこの美味しさに開眼したのだけれど、こんなに根っこの美味しいお野菜はなかなかないくらい美味しい。土で育った味というか太陽の味というか、ああああなんの味って言えばいいだろうか検証のために今から食べたい。
- 見るからに春の野菜、かわいい新芽、若い緑色の葉、ああこのままの色を染めてお着物に仕立てたい。おキモノ着たらお腹いっぱい食べられないけど。春の野菜の緑は、どれも綺麗で美味しくて春と美味しいが両方嬉しい。セリ色のアイテムがあれば買い揃える。好き。
おひたし美味しい、お味噌汁美味しい、混ぜごはんにも美味しい、お鍋も美味しい、パスタも美味しいしサラダも美味しい、美味しい!!
ホトバシるセリ愛。好きな野菜はと質問されたら、大きな声で元気よく答えます「セリ!!」。
三浦さんのこと
とてつもなく好きな食材ととてつもなく美味しい食材について、誰に見せるでもなく字数制限もなく自由自在に胃袋の赴くままにアウトプットしたくて始めようと思ったのがこのブログなので、タイトルはそのまま「あの人と食材」、としています。
正確には、「あの人」先行型で、その生産者さんの食材にのめりこむこともあれば、食材があまりにも美味しいので「どんな人が『あの人』なのか」となるケースもあって、今回は後者。
メディアを検索すれば三浦さんについてはいくつかの記事が出てきて、ポケマルのイベントでもお話をしてらしたのは存じ上げておりますとも。
でも、なにしろまだお世話になりだして2ヶ月ほど、まだまだわたしが「あの人」として三浦さんを語る段にないと理解しています。
だからどうなのか。
会いに行きたい生産者さんとして、虎視眈々とご縁を狙う予定でおります。
だって美味しいものを生み出す人は、なにも生まれつき魔法の手を持ってたわけじゃないと思うから。
どうやればこんなに美味しくなるのか、このべらぼうに美味しい野菜を育てる本人は、どうやって食べるのが好きなのか。
ああ、聞きたい。
どんな人なんだろうこの夢のセリを育てる人は。
食材が愛おしいと、生産者さんにまでその偏愛が (というよりは『累が』というほうが事象を示すに正確かもしれない) 及ぶのはいつものこと。
見ず知らずの消費者にまさかこんなこと言われてるなんて、三浦さんは知る由もないし、うっかり知ればちょっと怯えちゃうんじゃなかろうか。わたしだったらヤダ怖い。
三浦さんにとって不気味でそら恐ろしい存在にならない程度に、そーっとそーっと、明子姉ちゃん的なやりくちで影ながら見つめ、遠巻きに、溢れるセリ愛をお伝えしていく所存です。